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千葉地方裁判所 昭和62年(わ)892号 判決 1988年3月17日

本籍

千葉県柏市名戸ヶ谷九〇四番地

住居

右同

会社役員

藪崎亨

大正一五年一月四日生

本籍

千葉県柏市名戸ヶ谷九〇四番地

住居

右同

会社役員

藪崎高

昭和二四年一月一日生

右両名に対する各所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官川野武昭、弁護人神宮壽雄各出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人藪崎亨を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に、被告人藪崎高を懲役一年及び罰金三〇〇〇万円に各処する。

この裁判の確定した日から三年間それぞれの右懲役刑の執行を猶予する。

被告人らにおいて右罰金を完納することができないときは、それぞれ金五万円を一日に換算した期間、その被告人を労役場に留置する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人藪崎亨は、もと、主として農業に従事していたが、昭和四五年一〇月から、千葉県柏市名戸ヶ谷八三二番地の自己所有地において、「名戸ヶ谷ゴルフ練習場」の名称でゴルフ練習場の経営を始め、同五八年一月からはその経営を長男である被告人藪崎高に譲り、同六〇年一月に同ゴルフ練習場が有限会社となってからは同社の監査役をしている者、被告人藪崎高は、父親である被告人藪崎亨ら家族と同居して、県内の工業大学卒業後も右「名戸ヶ谷ゴルフ練習場」の営業手伝いを続け、前記のように昭和五八年一月からは父からまかされてその経営に携わり、同六〇年一月に同ゴルフ練習場を有限会社としてその代表取締役をしている者であるが、

第一  被告人藪崎亨は、昭和四二年に父が死亡した際約二五〇〇万円の相続税を賦課され、一括納付の資金的余裕がなかったため、その後事業収入を分納金に充てるなど四苦八苦して七年間かかってようやくこれを完納したという苦い思いをしたことから、自己の所得税の支払を免れて財産を手元に残そうと考え、前記「名戸ヶ谷ゴルフ練習場」開設当初からその売上収入の一部を除外するなどして同練習場からの事業所得を一部除外して所得税額を過少に申告していたが、昭和五七年度の申告に際しても自己の所得税を免れようと企て、前記のように同練習場売上収入の一部を除外する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ、昭和五七年分の実際総所得金額が一億一九七九万五七三一円、分離課税による長期譲渡所得金額が五六万五五〇〇円であったにもかかわらず、昭和五八年三月八日、同市柏一丁目二番一八号所在の所轄柏税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一七二二万九八三四円、分離課税による長期譲渡所得金額が五六万五五〇〇円で、これらに対する所得税額が五一六万八〇〇〇円である旨の偽りの所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、昭和五七年分の正規の所得税額七四三八万三一〇〇円と右申告税額との差額六九二一万五一〇〇円を免れ

第二  被告人藪崎高は、前記のように同練習場の経営を父である被告人藪崎亨から引きついだが、その際母親等から同練習場の売上金除外の方法を教えられたことなどもあって、自らも将来父が死亡した際の相続税支払や、同練習場の経営悪化に備えて現金を留保しようと考えこれまで父がしてきたのと同様の方法でその所得税を免れようと企て、同練習場売上収入の一部を除外する等の不正な方法により所得を秘匿したうえ

(一)  昭和五八年分の実際総所得金額が一億二二三三万六〇五一円であったにもかかわらず、昭和五九年三月一二日、同市柏一丁目二番一八号所在の所轄柏税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一八〇六万八一一五円で、これに対する所得税額が五三四万九〇〇〇円である旨の藪崎亨名義の偽りの所得税確定申告書を提出したのみで、昭和五八年分の所得税確定申告書を、その法定の提出期限である昭和五九年三月一五日までに、同税務署長に対し提出せず、もって、不正の行為により、昭和五八年分の正規の所得税額七六二四万一五〇〇円と右藪崎亨名義の所得税確定申告書記載の税額との差額七〇八九万二五〇〇円を免れ

(二)  昭和五九年分の実際総所得金額が九〇七六万一九四三円であったにもかかわらず、昭和六〇年三月一五日、前記所轄柏税務署において、同税務署長に対し、総所得金額が一五五三万八〇二五円で、これに対する所得税額が三八六万七一〇〇円である旨の藪崎亨名義の偽りの所得税確定申告書を提出したのみで、昭和五九年分の所得税確定申告書を、その法定の提出期限である昭和六〇年三月一五日までに、同税務署長に対し提出せず、もって、不正の行為により、昭和五九年分の正規の所得税額五〇二六万二三〇〇円と右藪崎亨名義の所得税確定申告書記載の税額との差額四六三九万五二〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人両名の

1  当公判廷における各供述

2  検察官に対する各供述調書

一  薮崎梅子の検察官に対する供述調書

一  柏税務署長作成の証拠品提出書

一  大蔵事務官作成の領置てん末書

一  押収してある所得税の確定申告書及び予定納税額通知書控各三通(藪崎亨・昭和五七年、同五八年及び同五九年分)(昭和六二年押第二七三号の1ないし3)

判示第一の事実について

一  大蔵事務官作成の

1  脱税額計算書(証第二号)

2  所得税額の算定表三通(それぞれ「証第三号」、「証第四号」及び「証第五号」と記載のあるもの)

3  「あん分税額の計算」と題する書面

4  売上金額調査書、期首商品棚卸高調査書、仕入金額調査書、期末商品棚卸高調査書、減価償却費調査書、利子割引料調査書、租税公課調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、研修費調査書、雑費調査書、地代家賃調査書、衛生費調査書、賃借料調査書、サービス費調査書、支払手数料調査書、配当所得調査書、事業主勘定調査書及び所得控除額調査書(いずれも昭和六一年一〇月三一日付のもの)

判示第二の事実について

一  大蔵事務官作成の

1  脱税額計算書二通(証第八号及び第一〇号)

2  所得税額計算書二通(証第九号及び第一一号)

3  売上調査書、期首商品棚卸高調査書、仕入調査書、期末商品棚卸高調査書、給料賃金調査書、減価償却費調査書、貸倒金調査書、地代家賃調査書、利子割引料調査書、租税公課調査書、水道光熱費調査書、旅費交通費調査書、通信費調査書、広告宣伝費調査書、接待交際費調査書、損害保険料調査書、修繕費調査書、消耗品費調査書、福利厚生費調査書、研修費調査書、燃料費調査書、衛生費調査書、賃借料調査書、サービス費調査書、雑費調査書、支払手数料調査書、車両除却損調査書、事業主勘定調査書及び所得控除額調査書(いずれも昭和六一年一一月一〇日付のもの)

(法令の適用)

被告人藪崎亨の判示第一の所為は所得税法二三八条一項に該当するところ、所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科することとし、その免れた所得税の額が五〇〇万円をこえるので、情状により同条二項を適用して、罰金はその免れた所得税の額に相当する金額以下とし、その刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役一年及び罰金二〇〇〇万円に処し、情状により刑法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、また、同被告人において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。被告人藪崎高の判示第二の(一)及び(二)の各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、それぞれ所定刑中懲役刑及び罰金刑を併科することとし、それぞれ免れた所得税の額が五〇〇万円をこえるので、情状により同条二項を適用して、罰金はそれぞれ免れた所得税の額に相当する金額以下とし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い(一)の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により(一)及び(二)の各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で同被告人を懲役一年及び罰金三〇〇〇万円に処し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、また、同被告人において右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。

(量刑の理由)

税は、言うまでもなく、国家財政の基盤である。この義務違反行為は、世上増々巧妙に行われているやに感じられるが、その行為の実質は、国民全体の犠牲において行為者のみが不当に利することにほかならないのであり、これを看過、放置するときは大多数の正直に納税している国民の納税意欲を失わせ、ひいて国家財政基盤の根底を揺るがすことにもなりかねない。このような意味で租税ほ脱は、反社会的な重大な犯罪である。然るに、被告人に藪崎亨は、昭和五七年度に支払うべき所得税のうち約六九〇〇万円をほ脱したものであり、ほ脱率も約九三パーセントもの高率であって、その結果は重大である。そのほ脱方法は、売上金額を半減させた記帳を行いこれに基づき表帳簿を作成するというものであり、本件が同ゴルフ練習場開設当初から長期間行われ続けた末の行為にあたっていること等を考えると、犯情は芳しくない。同被告人が所得隠しを始めたのは父親死亡による相続税の分納に苦労したことが契機となっているようではあるが、これによって脱税を正当化しえないことは言うまでもない。また、被告人藪崎高は昭和五八年度及び同五九年度に支払うべき所得税合計のうち約一億一七〇〇万円をもほ脱し、ほ脱率も九二ないし九三パーセントに上っていて、その結果は更に重大であり、ほ脱方法も父親のそれと同様であってよろしくない。同被告人の脱税の動機は今後の相続税支払や経営悪化に備えて現金留保することにあったのであるが、それを始めた際には、父親のやってきた売上金隠しの路線をひきつがないと急に高額の売上を計上することとなって不自然な結果となること等の事情もあったようであるけれども、やはり脱税を正当化するには程遠いものである。

しかしながら、反面、被告人両名は真摯な反省の情を示し、当然のこととはいえ、国税庁の調査後本来納税すべき額に修正ないし期限後申告を行ったうえ、本税、重加算税、延滞税ともその支払を済ませており、現在は法人組織となった同ゴルフ練習場と被告人らの主体を明確に分離し、誠実な経理処理及び税務申告を行っているようである。こうしてみると被告人らの再犯可能性は少ないと思われる。

このような被告人両名の有利、不利一切の情状を考慮すると、それぞれ主文の懲役刑に処したうえ、その刑の執行を猶予するとともに、主文掲記の罰金刑に処するのが相当であると考える。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋山規雄 裁判官 片山俊雄 裁判官 竹澤勝美)

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